相撲界を追われた横綱二人 ① 輪島
相撲では「下手(したて)は下手(へた)に通ず」などと言われ、上手からの芸を身に付けなくては駄目だとされる(上手と下手のせめぎ合いでは上手が有利)が、そんなセオリーに異を唱えるかのように、左四つからの下手投げを得意とし「黄金の左」と称えられた横綱輪島。
下手投げで強襲する輪島(右)。相手は北の湖(NHK「名力士・名勝負100年」より)。
プロの世界では、下手からの芸を極端に嫌う。
「下手投げを打ってはいけない」「下手投げを食ってはいけない」と言われている。ところが、輪島の得意、お家芸は左からの下手投げなのである。(中略)「輪島の下手投げを食うのが不思議だと見る人が多いが、一つ見逃していることがあるのです。輪島が左から下手投げを打つとき、ものすごい力で右から攻めるのです。そのためにこちらのバランスが崩れ、あの下手投げを食うのです」
大事な相撲でしばしば輪島に苦杯を舐めさせられた北の湖も
下手が強いんじゃないんですよ。右が強いんです。よく左を取ったら「黄金の左」だなんて言われましたけど、左はそんなに力、強くないんです。右が強いんです。右の絞りが強いですから、左が活きるんです。
と語っている(NHK「名力士・名勝負100年」より)。
北の富士と同じ感想。やはり対戦相手はよくわかっている。
北の湖(NHKテレビより)
つまり、右の絞り、おっつけからの下手投げという二段攻撃と言えるが、
「右からの攻めを見た者には感じさせず、もっぱら『黄金の左腕』だけにライトを当てさせた技能ぶりは、やはり彼が一種の天才であったことを示している」と前出の小坂秀二は記している(前掲書229ページ)。